材料物性学

料機能の力学創発とデザイン -物質世界に潜む無限の可能性に挑む-

巨大ロボットや月と地球を繋ぐ軌道エレベーターといった超大型機械構造物から原子サイズのナノマシンまで、近未来のわくわくするような「夢の機械」を実現するためには、それを支える「壊れない」革新的な材料強度や現代の常識からは不可能と思われる高度な材料機能・物性の創出が不可欠です。

私たちの研究室ではこうした「夢の材料物性」の実現を目指し、材料力学・固体物理学をはじめとした物質世界を記述する物理・力学理論の高度化と数値解析工学技術の開発を通じて、物質に潜む無限の可能性を探索し、近未来のものづくりの基盤となる新しい材料強度や物性を「創り、デザインする」研究を行っています。

教員

嶋田 隆広 ( Takahiro SHIMADA )

教授(工学研究科)

研究テーマ嶋田 隆広

私たちの世界は多種多様な性質・機能を持った物質で溢れています。このような無限にも思える材料機能の多様性は、いったいどのように生まれるのでしょうか?実は、物質のミクロな構造や力学状態が重要な鍵となっています。これを理解すると、「力」と「かたち」によって材料機能を(まるで錬金術のように)自在に創り変えることができます。私たちは、そのような物質世界に隠された法則を解き明かし、数理モデルへと昇華させることで、これまでの常識を覆すような高度な材料機能を力学的に創発しデザインする研究を進めています。

連絡先

桂キャンパス C3棟c2S01室
TEL: 075-383-3618
E-mail: shimada.takahiro.8u [at] kyoto-u.ac.jp

見波 将 ( Susumu MINAMI )

助教(工学研究科)

研究テーマ見波将

私たちの身の回りはたくさんの機械や電子デバイスがありますが、その機能や性能はどのように決まっているのでしょうか。それぞれの機能・性能は根源的には機械やデバイスに使用されている材料の電子状態から説明されます。私たちは非経験的な手法に基づく電子状態の解析から、新たらしい機能や、より高い性能を有する材料の設計・提案を目指しています。近年は電子状態の幾何学的位相(トポロジー)により発現する創発現象を活用した機能性材料の設計に取り組んでいます。

連絡先

桂キャンパス C3棟c2S02室
TEL: 075-383-3619
E-mail: minami.susumu.4f [at] kyoto-u.ac.jp

研究テーマ・開発紹介

支配方程式で旅する広大な物質空間 -物質機能のデジタルデザイン-

世界最初の電子計算機ENIACが開発されて以降、コンピューターの演算能力は飛躍的発展を遂げました。今や数値シミュレーションによって現実世界の様々な現象を再現できるまでに至り、世界的に競争が加速する研究開発・製品設計に不可欠な科学・工学ツールとなっています。今後、AIや機械学習・深層学習などの情報科学技術と結びつくことで数値シミュレーション技術はあらゆる産業分野でますますその重要性を高めていくことでしょう。

私たちは、物質を構成する原子の配列や電子の結合状態を解析する分子動力学や第一原理量子力学解析、材料組織や欠陥構造を解析するフェーズフィールド法などのメゾスケール手法、応力場・ひずみ場からマクロ形状を設計する有限要素法などの先端理論解析技術を併用・統合することで、ナノ~マクロの視点から強度と機能の支配法則を解明するとともに、全スケールから物質機能を創出・設計する技術を開発しています。

図-1 物質世界を記述する物理・力学理論とナノ~マクロスケールまでの統合的な解析技術図-1 物質世界を記述する物理・力学理論とナノ~マクロスケールまでの統合的な解析技術 

「理論上最強」よりもさらに強い -夢の壊れない材料を創る科学技術開発-

もしも壊れないくらいとても強い材料が実現できたら、どんな世界になるでしょうか?

いまの機械や構造物などの設計は全て「現在の人類が扱い得る材料の強さ」に基づいて行われています。壊れないくらい強い材料が実現できれば、全ての「ものづくり」にイノベーションが起こります。

私たちは、物質の構造的な強さを根源から解明するとともに、原子や電子といった物質の究極的構成要素を制御・設計することで、強度限界と思われた理想強度をさらに超えた革新的高強度機能を自在に付与する研究を行っています。

図-2 電子構造制御に基づく材料強度の自在設計図-2 電子構造制御に基づく材料強度の自在設計

力で「創る・描く」最先端物性  - 力 と かたち が創り出す物性最前線-

物質には無限の機能の可能性が秘められています。ところが、現在私たちが手にしている材料機能はそのうちのほんの僅か一部に過ぎません。どうしたら物質の可能性を引き出すことができるのでしょうか?

私たちは、材料に適切な「力」を負荷し、意図した「変形」をさせることで、物質が潜在的に持つ隠された高度な機能を引き出せることを発見しました。例えば、薄膜の局所に押し込み負荷を与えると、とても小さな磁場や電流で作用するスキルミオンと呼ばれる「特殊な情報磁石」を力学的に創り出すことができ、ビッグデータセンターの大容量化・省電力化への応用が期待されています。また、半導体にひずみを加えることで電気的性能を飛躍的に向上する技術「ひずみシリコン(Strained Silicon)」は、既に皆さんがお持ちのパソコンやスマートフォンなどの多くの半導体デイバスの設計で利用されています。同様の技術は、PlayStationなどにも利用される強誘電体メモリにも利用されています。このように、「力」と「かたち」によって新しい物性を創出・設計する科学と技術を開発しています。

図-3 力学的に創り、描かれた最先端物性(Skyrmion, Meron, Superhelix)
図-3 力学的に創り、描かれた最先端物性(Skyrmion, Meron, Superhelix)

材料欠陥で創る「一億分の1」の機械  -究極のナノマシンを目指して-

巨大な機械構造物とは対照的に、小さな機械であるナノマシン(例えば、患部に薬を届けるドラッグデリバリーや機器内部の破損箇所を修復するナノマシン)も夢の機械の一つでしょう。ナノマシンを作るには、究極的に小さく、かつ、物質内を自在に動き回って所望の仕事ができるような機構が不可欠です。

私たちは、き裂やボイド、原子空孔や転位など材料機能を劣化させたりする「悪役」として永く忌避されてきた欠陥にスポットライトをあて、これまでの常識にとらわれない新しい視点から欠陥を研究することで、欠陥が従来材料にない機能を持ち、物質中を自在に動き回って様々な有益な仕事をする「究極のナノマシン」へと創り変わることを発見しました。例えば、原子空孔が外部電場や磁場によって機械駆動する「原子スケールのナノマシン」として働くことや、転位の集合組織がANDやNORといった「原子サイズの論理演算回路」として機能すること、結晶粒界が原子厚さの磁性薄膜として記憶素子などに利用できることなど、いずれも常識からは不可能と思われてきたことを覆す発見をしています。

図-4 原子スケールのナノマシン・ナノデバイスとして機能する様々な格子欠陥
図-4 原子スケールのナノマシン・ナノデバイスとして機能する様々な格子欠陥