適応材料力学
複合材料は軽量で高比強度・高比剛性を実現する「賢い」材料であり、エネルギー変換効率向上を実現する「環境に優しい」材料です。また、ナノテクノロジー技術の援用により自己修復性を組み込む等さらに賢い「スマートマテリアル」の実現も期待されています。
本研究室では、破壊力学・マルチスケールメカニクス・微視構造制御の立場から、航空・宇宙、磁気浮上列車、風力発電、核融合炉等の先端分野に用いられている先進複合材料の性能向上と応用分野開拓のための基礎的研究に取り組んでいます。また、自己修復性を持つ究極のスマート材料としての骨の再生過程および細胞レベルでの力学応答特性も検討しています。
教員
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西川 雅章 ( Masaaki NISHIKAWA )
准教授(工学研究科)
研究テーマ
航空機や自動車等の輸送機器や先進分野で構造材料として用いられる繊維強化複合材料(FRP)および機能性高分子複合材料(ソフトアクティブマテリアル)等の変形・損傷・破壊といった材料メカニクスを力学モデルにより解明し、先端材料の新しい設計方法へ応用する研究を行っています。
連絡先
桂キャンパス C3棟c2S05室
TEL: 075-383-3626
FAX: 075-383-3626
E-mail: nishikawaアットマークme
研究テーマ・開発紹介
※最新の研究テーマは,研究室ホームページをご確認ください.
航空機構造用先進複合材料のメゾ構造制御による高性能化
炭素繊維強化プラスチックス(CFRP)は、軽量かつ高強度・高剛性であるため、最近の旅客機の尾翼や主翼の補助翼、後部胴体、圧力隔壁等の主構造材料として用いられています。材料は直径が5マイクロメートル程度の炭素繊維と高性能のエポキシ樹脂からなっています。
炭素繊維を一方向に引き揃えた厚さが0.1ミリメートル程度の薄いシートを積層して構造を作るため、繊維方向が変化する界面でかつ繊維で強化されていない(樹脂のみの)積層界面で、容易にき裂・はく離が発生します。これが設計上の弱点となっているため、より層間靭性の高いCFRPが求められています。
本研究室では、層間での破壊機構を微視的に解明し、その上で、強化繊維、樹脂および繊維/樹脂間の界面といった数ナノメートルから数十マイクロメートル程度の長さ領域(メゾ領域)の構造(メゾ構造)を制御することで、飛躍的に層間高じん化が達成できることを見出しました。また、類似の材料は、当研究室での疲労強度評価の上、すでにボーイング777の尾翼主構造に用いられています。
また、近年、性能とコストを両立させる目的で、積層方向にも繊維を配向させた3次元プリフォームあるいはニットファブリックを用いるRTM(レジントランスファーモールディング)法が、高性能を維持しながら低コストで主翼等の大型の構造を一体成形できるため、期待されています。しかし、内部構造が複雑で従来のマクロな理論では材料特性を予測できません。
本研究室では、メゾ的な数値解析を実験結果と比較することで、この新しい材料の強度およびそのばらつきの決定要因を抽出し、より信頼性の高い設計・製造法にフィードバックすることを目指しています。
図-1 新世代旅客機ボーイング777
図-2 CFRPの高性能化
先進繊維強化複合材料のメゾ事象とマクロ特性の相関の高精度評価法の開発および変形・破壊挙動のメゾスケールシミュレーション
繊維強化複合材料のマクロな破壊は、繊維破断・母材き裂・界面はく離といったメゾ領域での事象(メゾ事象)、およびそれらの力学的相互作用に大きく影響を受けます。特に、界面の特性や破壊挙動は、マクロな破壊に与える影響が大きく重要なメゾ事象のひとつです。しかし、界面破壊機構には未知の部分が多く、界面強度の定量的評価法も発展途上の段階にあります。
本研究室では、直径数マイクロメートル程度の微小な繊維数本と樹脂からなるモデル複合材料を作製し、当研究室で開発した微小荷重疲労試験機を電子顕微鏡に組み込むことにより、静的および疲労界面はく離進展の直接観察を成功させました。また、3次元有限要素解析と併せ、界面はく離のクライテリオンについて検討しています。
また、界面強度の定量的評価法が確立されれば、材料種別を越えて、個々のメゾ事象とマクロな破壊現象との相関関係やメゾ事象間の力学的相互作用を体系的に記述できるマルチスケールなメゾメカニクスモデルを構築することができます。
このモデルを用いたシミュレーションにより複合材料の変形・破壊挙動を精度良く再現できれば、界面強度などのメゾ構造を最適化したよりすぐれた材料の開発が理論に基づいて実現でき、材料開発に要する費用・時間・労力を大幅に節約できます。この観点から、メゾメカニクスの確立に向けて基礎研究に取り組んでいます。
図-3 界面はく離進展のその場観察
図-4 メゾメカニクスシミュレーション
高温超伝導複合材料の力学特性と超伝導特性の相関の検討
磁気浮上列車、電力貯蔵、核融合炉などに利用される超伝導線は、超伝導状態安定化のため、フィラメント状超伝導材料を銅や銀マトリックスと複合化した機能性複合材料です。特に、Bi(ビスマス)を用いた酸化物超伝導材料は、従来の超伝導材料に比べて、高温(液体窒素温度)でも超伝導状態が発現するため、マグネットの電流リードや超伝導送電ケーブルなど幅広い応用が期待されています。
しかし、これらの超伝導複合材料は、実際にはコイル状に加工して用いられることが多いため、曲げ負荷を受けることになります。
また、超伝導電流が流れると非常に大きなローレンツ力が発生し、過酷な力学条件下で使用されることになります。特に化合物、酸化物超伝導体は脆く損傷が発生しやすく、これが超伝導特性の著しい低下に結びつくため、超伝導複合材料の力学的特性と超伝導特性の相関の把握は重要な課題となっています。
本研究室では、超伝導複合線材の変形・破壊をメゾメカニクスの観点から実験および解析により検討するとともに、超伝導特性の向上のための力学的設計指針の確立に取り組んでいます。
図-5 磁気浮上列車
図-6 曲げ変形と超伝導特性の相関