量子ビーム物質解析学

一億倍に拡大した空間で行うものづくりと機能の探求

本研究室の活動は、結晶、非晶質物質、非平衡物質の物性の起源を原子の配列のスケールで理解すること、その理解を踏まえて有用な材料を創り出すことを目標として行われている。中性子線、X線(自由電子レーザーを含む)、電子線などの量子ビームを使って、回折法・散乱法・吸収法による解析を複合的に行い、宇宙・太陽系・地球の物質の成り立ちや、人間に役立つエネルギー材料、機能性セラミックスの性質を調べている。量子ビーム解析により、物質中の原子の配列(静的構造)に加えて、原子の揺らぎと拡散(動的構造)を捉えることができる。解析で得られた物質材料の構造と、それらの物性の起源との関連性を予測した上で、高温や超高圧力、超高変形速度などの環境条件を自在に制御して新しい構造をつくりだし、それをさらに量子ビーム解析して目標に近づけてゆく。

教員

* メールアドレスの後ろに .kyoto-u.ac.jp を補ってください。

奥地 拓生 ( Takuo OKUCHI )

奥地拓生教授(複合原子力科学研究所)

研究テーマ

宇宙や惑星に普遍的に存在する物質である、鉱物、金属、氷の成り立ちを、各種の量子ビームを使って解析しています。これらの物質ははるか遠方にあって、惑星探査でもやらないと手に取ることが難しそうですが、いろんな工夫をすれば、地上の実験室でもほぼ同じものがつくれます。つくった物質を手に取り、それが自然界において果たしてきた役割や機能を理解することで、人間が使うものづくりへの指針を得ることもできます。

連絡先

複合原子力科学研究所 第二研究棟 305号室
TEL: 072-451-2474
E-mail: okuchiアットマークrri

小野寺 陽平 ( Yohei ONODERA )

助教(複合原子力科学研究所)小野寺陽平

研究テーマ

中性子、放射光X線といった量子ビームを中心とした実験と分子動力学計算および逆モンテカルロ法による構造モデリング、そして最先端の位相的データ解析を相補利用することによって、ガラス・液体・アモルファスといった機能性非晶質材料の構造と機能の相関を明らかにする研究に取り組んでいます。

連絡先

複合原子力科学研究所 第二研究棟 306号室
TEL: 072-451-2423
E-mail: y-onoderaアットマークrri

梅田 悠平( Yuhei UMEDA )

助教(複合原子力科学研究所)梅田

研究テーマ

衝突現象が惑星の進化や環境に与えた影響を考察するために、衝撃波による急速な圧縮で高温高圧になった鉱物や金属材料などの性質を研究しています。衝撃波の発生には、火薬銃や高強度レーザーを使用しています。火薬銃を用いた実験は大容量の試料を回収することが可能です。一方、レーザーを用いた実験は、衝撃圧縮されている物質のまさにその瞬間の状態や構造変化の様子を調べることが可能です。両手法の強みを活かしながら、衝撃圧縮中の惑星物質の振る舞いやそのダイナミクスを調べ、衝突のスケーリングや衝突誘起反応を考察することによって、衝突現象が惑星進化史に与えた影響を明らかにします。

連絡先

複合原子力科学研究所 第二研究棟 306号室
TEL: 072-451-2367
E-mail: umeda.yuhei.2eアットマーク

研究テーマ・開発紹介

宇宙と太陽系の物質と材料

宇宙には惑星系を持つ恒星がたくさん観測されており、そこでは小惑星や彗星などの衝突現象が普遍的に発生し、その繰り返しによって惑星が成長しています。45億年前にはこのような過程を経て我々の地球が誕生しました(図1)。地球の誕生後にも、宇宙からの天体による大規模な衝突現象は環境変動や生物活動に大きな影響を与えてきました。これらの衝突現象を地上の実験室でつくりだし、その場で鉱物、セラミックスや金属が経験する構造の変遷を調べます。太陽系や地球の成り立ちの理解、衝突現象の理解に加えて、破壊に強い物質を得るための新たなものづくりの指針が得られます。

図1
図1 惑星誕生の場の様子

地球の物質と材料

現在の地球をつくる物質の大部分は地下深くの手の届かないところに埋めこまれており、いわば未知の状態にあります。このような地下の高温高圧の条件を人工的につくりだす実験技術を使って、そこにある結晶をつくり、地球の成り立ちを調べます(図2)。このような解析によっても、壊れにくく硬いセラミック材料や高温で動作するプロトン伝導体など、新たなものづくりの指針が得られます。

図2
図2 実験室で合成した地球深部の結晶

非晶質の物質と材料

非晶質はガラスや液体に代表される原子配列が乱れた構造を持った物質です。非晶質物質はその乱れた構造に起因した特異な材料特性を示し、例えばガラス材料は、近年、食器や構造材料のみならず、スマートフォンのカバーガラスや光ファイバーなど、我々の身の回りで広く使われている生活に欠かすことのできない材料となっています。

さらに優れた材料特性を示す新しい非晶質物質を効率的に開発していくためには、材料の特性を発現させ、コントロールしている「構造」を明らかにし、その構造に基づいた物質創製が重要となりますが、長周期的に整った原子配列を持つ結晶とは異なり、原子配列が乱れている非晶質物質の構造を解析することには大きな困難が伴います。

本研究室では、最先端の量子ビーム実験で得られる回折・散乱データを理論計算、コンピュータシミュレーションと組み合わせることによって、非晶質物質の3次元原子配列を高い信頼性で構築し、乱れた原子配列からの、材料特性に重要な役割を担っている構造の抽出に取り組んでいます。

最も代表的な非晶質材料の一つであるシリカ(SiO2)ガラスの研究結果を図4に示します。回折データ(左図)に現れる特徴的なピークの起源となる構造を右図のマゼンタの領域として抽出しました。SiO2ガラスはSiO4四面体が連結して形成されるネットワーク構造によって構成されますが、水色で示したネットワーク構造が繰り返されることで形成される周期的な構造(赤矢印は約1ナノメートルの長さ)がガラスの中には存在することを見出しました。

我々は主に酸化物のガラス・液体を研究対象とし、ガラス形成能、熱物性、イオン伝導性、圧力応答性(主にガラスの高密度化のメカニズム)といった様々な材料特性に寄与する非晶質構造の解明(無秩序の中に潜む秩序の解明)に国内外の研究機関と共同で挑戦しています。

図3

図3 シリカ(SiO2)ガラスの中性子回折および放射光X線回折データ(左)と回折データを再現するように理論計算を援用したコンピュータシミュレーションで構築したSiO2ガラスの3次元原子配列(右)