熱材料力学
高度分散発電システムで代表されるようなエネルギー・資源の高効率有効利用や,地球規模の環境負荷軽減対策などにおいて、様々なエネルギー機器内の熱流動現象に関する先進的な機械工学的知恵と技術は、今後ますます重要になると考えられます。また、超小型の検査・治療用診断システムのような先端医療技術開発分野においても、そのシステム内での試薬、体液などの流体輸送・混合・反応制御技術の高度化は必須です。
本研究室ではこのような機器の開発に向け、流体どうしの混合や反応、流体と固体壁面との間の熱・物質輸送、熱流体センシングなどに関する基礎研究を行い、マイクロ熱流体デバイスやマイクロセンサーなどの実現を目指しています。
教員
* メールアドレスの後ろに .kyoto-u.ac.jp を補ってください。
栗山 怜子 ( Reiko KURIYAMA )
助教(工学研究科)
研究テーマ
マイクロ熱流体デバイスの高効率化・高機能化に向けて、ナノ・マイクロスケールにおける熱流動現象の計測・解明・制御を目的とした基礎研究を行っています。蛍光や散乱光を利用した非侵襲な温度・濃度計測法の開発やデバイスの評価などを行っています。
連絡先
桂キャンパス C3棟b2N04室
TEL: 075-383-3608
E-mail: kuriyamaアットマークme
研究テーマ・開発紹介
光照射による能動的熱流動制御に向けたPhoto-Rheological Fluidの熱流動解析
小型熱交換器の性能向上に向けて、光によって粘弾特性の変化する流体(Photo-Rheological Fluid: PRF) の熱流動制御に関する研究を行っています。一般に、流体の弾性によって生じる渦や非定常流れは伝熱促進に貢献する一方、圧力損失を増大させることが知られています。本研究室では、光照射によってPRFの粘弾特性をアクティブに制御することで、伝熱性能と圧力損失のトレードオフを緩和し、高効率な熱交換を実現することを目指しています。感光性物質を添加した界面活性剤溶液をPRFとして用い、その粘弾特性や熱流動特性を実験的に明らかにしていきます。
Fig.1: UV照射に伴う感光性物質(OMCA)の分子構造の変化
Fig. 2: UV照射時間と平均ヌセルト数の関係 / Fig.3: UV照射時間と摩擦係数の関係
伝熱・混合性能の向上のための粘弾性流体流れの計測および数値解析
非ニュートン流体の一種である粘弾性流体とは、粘性に加えて弾性特性を示す流体であり、高分子溶液や界面活性剤溶液などが例として挙げられます。これらの粘弾性流体には流れの不安定性を促進する効果があることが分かっており、流路内における熱輸送や物質輸送にも大きな影響を与えると考えられます。本研究室では、蛇行流路内粘弾性流体流れに関して、蛍光色素を用いた流れ場の可視化や伝熱特性の実験的評価、3次元熱流動場数値解析による流れの形成機構の解明などに取り組んでいます。
Fig. 4: 蛇行流路における流脈線の可視化画像
(各図の上下はそれぞれ流路側面、上面からの撮像結果を示す)
Fig.5: 正方断面を有する蛇行流路における (a)計算領域および (b)断面速度分布計算結果
マイクロプラットフォームを用いた生体現象の温度特性計測と熱物理の解明
生体内の深部体温は通常はあまり変化しないことが知られていますが、医療現場においては温熱治療や人工心肺の使用などの処置に応じて局所体温が大きく変化する事例が見られます。本研究室では、熱に関連した様々な生体現象のメカニズムについて、熱工学の立場から解明を目指しています。現在は特に、血栓の形成・線溶メカニズムの解明に向けて、マイクロプラットフォームを用いたフィブリン網の観察や、温度や濃度、流れの影響に関する計測・分析を行っています。
Fig.6: マイクロ流路内におけるフィブリン網の形成過程
単一細胞分析チップの実現に向けた分取システムの開発および細胞運動特性の解析
テーラーメイド医療や再生医療の発展に向けて、単一細胞レベルで細胞を分析可能な小型熱流体デバイスの開発が求められています。本研究室では、単一細胞を高効率かつ高精度で分析可能な小型チップの実現を目的として、主にマイクロ流路内における細胞の操作や位置制御に関連したシステムや解析手法の提案を行っています。一例として、下の図に示すような、誘電泳動力によって細胞を整列・分類するための電極の設計・評価を行っています。それ以外にも、流れ場中の細胞位置制御に向けた細胞運動特性の実験的評価、微小流路内における細胞の変形特性を解析するための力学モデルの開発にも取り組んでいます。
Fig.8: 細胞分取のための流路および電極の上面図
Fig.9: リンパ球の変形に核の位置が及ぼす影響
マイクロ熱流体デバイス創製のための熱流動解析と計測
Power-MEMS(超小型エネルギー機器)やμ-TAS(マイクロ化学分析システム)などに代表されるマイクロ熱流体デバイスの創製に向けた支援研究として、マイクロ流路内の熱流動現象に関する計測・制御技術の開発を行っています。現在開発中の蛍光偏光法に基づく温度計測法は、流体中に混入した蛍光分子のブラウン運動に伴う偏光解消を利用して、マイクロ流路内の流体温度を非接触かつ高空間分解能で測定することを目指しています。このように新たに開発した計測技術を用いて微小空間特有の熱流動特性を解析し、マイクロスケールにおける現象の解明や制御、デバイスの開発設計へ応用していきます。
Fig.10: 直線偏光の入射光による蛍光分子の励起、及びブラウン運動に伴う蛍光の偏光解消
Fig.11: 蛍光の偏光度Pと温度との関係